(2012.05.29) 見切り発車
ろくな考証もないまま、書き上げるだけ書き上げてみた
タイトルはまだ未定
愛知三重前提で、捏造愛知県（尾張）と額田県（三河）の話
三重のセリフが少なめなのは、三重の方言がわからないからです
そして愛知が三河弁っぽいのは、おいらが名古屋弁に詳しくないからです
すみません
ふ、と胸の痛みを感じて、愛知は大須の空を仰いだ。
古着を買いにわざわざ出向いてきた三重のお供だ。
愛知自身、流行に過敏なのも見栄っぱりなのも自覚している。だからこそ、新しい筈の衣類がそのまま中古品として並ぶ街も成立してしまうのも、我がことながら納得できる。
「これなん、まだ、新品やのに」
三重の言い分はもっともだ。
もっともだけれど、古着にさほど興味がないことも見抜かれていたようで、さきほど暇を出された。
大須商店街の招き猫の前で、からくりを見てからどれくらいたったか。
さきほどの胸の痛みに思いを馳せた。
廃藩置県が行われ、犬山県を合併し名古屋県から愛知県と名が変わって間がない頃だった。
仕事から戻ると、来客があった。
「どーしたね、三河。こんな遅くに」
座敷に通されていたのは小柄な少女だった。
彼女もまた、自分と同じ国の具現化。いくつかの藩を抱えてはいたが、長い間一人の少女として象っていた。
今は額田県と名前が変わっていたのだが、旧来の呼び名が抜けきらない。
「やっとかめだねぇ、尾張。元気だったかん？」
それを受けて額田も旧国名を呼びながら振り返った。
「おかげさんで。ちぃと忙しぃでかんわ。そっちゃぁどーだん」
「こっちも、えらいことなっとる。」
愚痴のひとつも言いに来たかと、座敷に入った愛知は額田の前に腰を下ろした。
自分用のお茶が用意されてきたので、一口口をつけた。
額田のお茶が新しいものに代えられたところを見ると、かなりの時間、待たせてしまっていたらしい。
器を入れ替えるのを手で制して、残ったお茶を一息に飲み干してから額田はお礼を言って新しい湯呑を受け取った。
「秋には愛知県になるじゃんね」
おもむろに切り出された言葉に、愛知は息を飲んだ。
「何驚いとんの。もう決まっとるがん」
「ほーだけど」
「あたしはあんたに任せようと思っとるで」
「は？」
言葉の意味が飲み込めず、愛知は額田を見つめた。
「ほぃだで、あんたとあたしが合併するってことは、どっちかが残るってことだら」
正確には、新しい存在が生まれるということなのだが、彼女はそういう解釈らしい。
太古のことになるけれど、三河と穂がひとつになる時にも同じようなことを彼女は言っていた。
「これから先、娘のあたしよりちょっとばか気の強い、やり手の男の方が都合がいいと思うでさ。
あんたに任せた方がえぇと思っとる」
「ちょ…ちょうけたこと言っとっちゃかんが！」
それは自分の意思で自分の存在を打ち消そうとしていることになる。
「愛知になったら、尾張でも三河でもなくなるんだで、どっちでも一緒だがん」
そう、新しい県になるというのは、そういうことだ。まったく新しい概念として自分たちは別の存在になる。
土地の具現化である以上、それは避けられないと愛知もわかってはいる。
それでも。
「ほいでもおみゃーさん、自分から自分を差し出すよーなことせんでも…」
「だで、さっきも言（ゆ）ーたがん。これから先は、あんたみたいなちぃとばか気の強い、やり手の男の方が都合がえぇだろうってさ。あんたみたいな器量のいい男なら、あたしらだって鼻が高いが」
長い間、多くの土地が吸収されたり離れたり、いくつもの変化を自分たちは体験してきた。
国の中の分裂にだって、影響を受けてきた。
それでも。
「ほいだでさ。押し付けてすまんけど、愛知はあんたに任せるで」
額田は笑って残ったお茶を飲み干すと、「ほいじゃ」と言って席を立った。
「ごっそさん、秋になる前にまっぺんさよならしに来るわ」
何も言い返すことができず、うつむいていた愛知を置いて、額田は見送りを断って帰っていった。
言葉の通り、彼女は夏に遊びに来て「ほぃじゃなー」といつものように帰って行ってそれきり姿を見せなかった。
１１月２７日。
愛知は泣かずにはいられなかった。
自分が一人になったという、その事実が。
長い間そばにいた、隣国をひとり、自分のために失ったという事実が。
それは戦略でも戦争でもなく、ただ、国の施策というただそれだけで。
古くからの友人が一人、姿を消したという事実が。
まだ、幼さの残った彼の中で、悲しみという形になって溢れていた。
二度目のからくりが、始まっていた。
女子の買い物は非常に長い。それは具現化であろうとなかろうと、変わらないらしい。
街の喧騒に引き戻されて、愛知はため息をついた。
具現化である以上、仕方がないとはわかっている。
けれども、首都機能の移転、道州制、いま言われているどれかが実現してしまえば、同じ悲しみは再び訪れるのだ。
そして、おそらく、愛知になる時よりも深い痛みが、自分を襲うのだろう。
「愛知ー」
ショップの紙袋を両手に下げて、三重が通りから戻ってきた。
「また、ぎょーさん買ぅてきたなぁ」
「安いんだもんさー」
「貸ぃてみやぁ、持ったるで」
「おーきにー」
三重から渡された紙袋を両手に持って、もう一度空を仰いだ。
「近くに美味いカツ丼屋があるでよ。昼ごはんはそこにしよまい」
「女の子とカツ丼…」
「カフェまで戻るにはちぃとばか距離があるで、しゃーないが。」
「はぁい」
両手の紙袋を掲げて見せると、苦笑いしながら三重も頷いた。
ちりちりした痛みが、再び胸によみがえる。
きっと自分ひとりではなく、すべての県が感じたことのある痛みだろう。
「あんたが思ったように、なったかん？」
失った旧友の口調を真似て、空に向かって呟いてみる。
感傷など許されない存在なのはわかっている。
それでも、人としての感情を抱ける存在としてこの世に在ることを許されたのなら、願うことだって許されるだろう。
今あるこの存在を失いたくない。
一歩先で揺れる三つ編みを見ながら、愛知は痛む胸で願っていた。
三河は女の子
見た目としてはしずちゃんに近いけど（ぽにてというより、一つ縛り）、キャラとしては滋賀に近いイメージ
きっぷがよくて、ちゃっかりものだけど、仕事熱心、そんな子
まぁ、捏造です
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